風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第203段

40日間、日本滞在(その11)

 安城市

 安城市は、おふくろの故郷である。

 安城市にある、「デンパーク」、そして「丈山苑」には、おふくろと良く出かた。

 おふくろが、好きな場所であった。

 最後におふくろと「デンパーク」に行ったのは、季節としては、夏が終わる頃であった。

 その時は、私の妹、伯と4人であった。

 車いすを借り、おふくろは笑顔で、沢山の花を見つめ、ご機嫌な様子だった。

 おふくろがいなくなった今、伯と2人で「デンパーク」を歩いている。

 「スイレン」の花の季節が終わろうとしているが、ところどころに、白い大きな「スイレン」の花が咲いていた。

 風は、優しく、季節の節目を教えていた。

 茶店の入り、注文した。

 何時もは食べない「あんみつ」を注文した。

 おふくろと最後に来た時に、おふくろが食べたのは、「あんみつ」だったことを覚えている。

 美味しそうに、ゆっくりゆっくり食べていたおふくろ。

 面影が、浮かんでくる。

 園内を散策している間、おふくろが車いすに乗っている姿、そして、妹が、おふくろに話かけ、笑いこけている姿。

 そんな想い出が、よぎった。

 

 「デンパーク」を出て、「デンパーク」と2キロくらい離れた「丈山苑」に行った。

 紅葉には早すぎたが、竹林を横に、せせらぎの中、小道を登る。

 入り口で、入園料を払い、部屋に上がる。

 縁側と、3つの和室があり、縁側からは、裏庭を見ることができ、和室からは、「もみじ」「つつじ」が植えられている庭を見渡せる。

 和室に座り、庭を見渡す。

 「つつじ」は綺麗に、刈り込みされている。

 そして、「つつじ」の向こう、庭を出たところから、時々、「コーン、コーン」という音が聞こえる。

 「ししおどし」の音である。

 いつ来ても、心が安らぐ場所である。

 

 おふくろは、畳に座り、抹茶をいただきながら、庭を眺めていた。

 静かに、ゆっくりとした、時の流れを、時には目をつむり、静かに庭を楽しんでいた。

 おふくろがいない今、伯と再び「丈山苑」に来て、おふくろと来た時と同じように抹茶をいただき、庭を見た。

 「ヤブラン」が咲いている。

紫色で、細長い花である。

 

 抹茶をいただき、庭に下りてみた。

 すると、「つつじ」の下に「ほととぎす」が咲いていた。

 「ほととぎす」は、おふくろが愛した花。

 紫色が、空に向かい、おふくろに語りかけていた。

 「もう一度、遊びにおいで・・・。」

 いや、おふくろは、いま、一緒に来ている。

 日本に戻った、私と一緒に、いま、ここに来ているよ。

 そよそよと、「ほととぎす」は揺れていた。

 爽やかな、風に包まれて・・・。

 さて、安城市の最後に出かけたのは、「安城市歴史博物館」であった。

 ここには、おふくろの生家の農業の歴史が展示されている。

 それを見るためであった。

 太古からの、安城の歴史が見られる。

 それらを見て行くと、「板倉農場」の展示場所に着く。

 以前は、農家の庭先で、幼い女の子が2人で石けりをして遊んである模型が、展示されていた。

 鎌倉の兄と一緒に、おふくろを連れて、ここに来た時は、それを見て、私が「ほら、あんたが遊んでいるよ。」と言ったたら、おふくろが、その模型である小さな女の子をジーと見て、最後に微笑んだ。

 私は、その笑顔を忘れることはない。

 いまは、DVDでおふくろのお父さんの功績を流している。

 おふくろが逝ってしまい、少ないおふくろの遺品を整理した時、おふくろの「女子師範学校の卒業証書」、「教員免許証」などがあった。

 おふくろが大切に保管しておいた品であり、私が持っているより、この史料館に保管してもらった方が永々と残るであろうと思い、ブラジルに渡る前に、伯とふたりで来館し、保管をお願いした。

 伯と2人で、DVDを聞いた。

 おふくろのお兄さんが、牛を引き、田を耕していた。

 幼き日、遊び廻った想い出。

 「おふくろさん、ありがとう。」

       庭に下り 見つけたるや ほととぎす

             母の面影 風が包むや

       たらちねの 面影残る 丈山苑

             また咲きほこらん 庭ほととぎす

丈山園寸景。

デンパーク寸景。

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