風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第116段

一葉

 正月2日、1通の手紙。

 それは、私にとって思いもよらない・・・。

 いや、待ちに待った一葉であった。

 震える手で封を切る。

 近況が書かれている。

 体調をくずしていると・・・。

 頑張って・・・。

 元気になってくれ・・・。

 そして、若かりし時の言葉。 

 短い言葉の中、大切にしていてくれた言葉・・・。

 

 ありがとう・・・。

 あの光は 残っている

 興正寺 五重塔

 恵みある あふれるばかりの 木漏れ日の中

 カメラを持つ かわいい あなた

 初めてのデートは 光の中

 あの音は 残っている

 下之一色に続く 路面電車 ゴーゴーと

 揺れる景色に あなたのしぐさ

 子供のように

 あの風は 残っている

 庄内川の 土手の道

 そよそよと 野菊を揺らし 春の中

 いつまでも あなたと歩く

 

 あのぬくもりは 残っている

 安保の中の 学園祭

 歌声の中 飲むビール

 遅くなり 家まで送る タクシーで 

 寄り添い 握った あなたの手

 初めての そして 一度だけ

 軟らかく あたたかい

 

 時は過ぎても わが心に

 溢れんばかりの 想い出が

 いつまでも 残っている

  

  ありがとう

 風運ぶ 時の流れを 連れてくる

          かの想い出を 一葉に秘めて

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