風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第103段

最後の挑戦に向けて

 不動産の仕事をあきらめた伯ではあるが、悔しさという言葉は、当てはまらないようだ。

 南国の女性のカラッとした性格とはいわないが、伯の性格であろう。

 「尾は引いていない。」

 張り切って、元気よく、生活をしている。

 今日は、朝4時起きであった。

 着変えをし、食事をせず、出かけるための準備をした。

 4時半、家を出発した。

 霧雨の中であるが、傘をさすまでもない。

 どんよりとしたオレンジ色の街燈は、滲んで見えていた。

 4時半ということで、さすがに人陰は、まばらであった。

 バスターミナルに着き、乗車のバスを待つ列に並んだ。

 5時になっていた。

 乗ろうとするバスは、マチダ家に近いバス停でも乗ることができるが、バスターミナルが始発駅になり、座ることができる確率が高い。

 今日は、私と伯が並んだ列には、すでに20人ほどが並んでいた。

 座ることができる人数である。

 列に並んでから、バスが到着するのに、5分ほどであったが、私達の後には、長い列ができ、バスに乗り込む。

 始発ではあるが、すでに座る席が無く、立つ人が沢山いた。

 バスが発車し、停留所を渡っていくと、乗客が増え、5つ目の停留所では、すでに満員であった。

 まだ、明るくなっていない。

 街の商店は、シャッターが閉まったままで、昼間の様子と違い、まだ来たことがない街のように見えた。

 四時に起きたが、眠気はなく、暗い外を見ているだけであった。

 乗客は無言で、バスのエンジンの音だけが煩く、少し静かにならないかと、思った。

 グラルーリョスの街に着く前に、乗客は、次々に降りていく。

 きっと、近辺の工場などに出社していくのであろう。

 グラルーリョスの街に入り、繁華街を通過した停留所で、バスを降りた。

 6時近かった。

 

 伯と2人で、歩き始めた。

 まだ、暗い道を歩き始めた。

 こんなに早い時間に、伯と2人で歩き始めている。

 想い出が、甦って来ていた。

 日本で、朝、暗いうちに、2人で歩いたことであった。

 桜の並木、小川の流れる音、野辺の花、そして、明けていく朝焼けの赤い空・・・。

 懐かしい想い出である。

 霧雨が止み、朝日が昇ってきた。

 

 私の心臓と、血糖値の病院が決まったのである。

 ブラジルに来て、初めて診察してもらってから、3ヶ月以上が経過している。

 やっと、決まったのである。

 遅いとか、ゆっくりし過ぎとかは、もう問題にしようとは思わない。・

 ブラジルの中の決まり事であるから・・・。

 ただ、マチダ家からバスと徒歩で、1時間半かかる。

もう少し、近いところの方が、良かったという気持を、持ってはいる。

 「セメグ」という診療所である。

 「グラルーリョス中央特別診療所」とでも、訳しておきます。

 

 予約は、7時ということであったが、6時には「セメグ」に着いてしまった。

 私達の前には、すでに三3組の患者が並んで、門が開らかれるのを待っていた。

 立って待っているので、さすがに疲れを感じた。

 朝の風は、少し冷たく、また風邪をひかなければよいが・・・。

 15分経ち、門が開き、中に入り、やっと、座ることができた。

 6時半には、受付が始まり、診察してもらえる部屋の番号と、順番が決められた。

 決められた部屋の前に行き、廊下に据えられた椅子に座ると、さすがに、睡魔が襲ってきた。

 患者は、だんだんと増えてきていた。

 眠ってはいけないと思う気持であったが、コックリ、コックリを始めてしまっていた。

 名前を呼ばれたのは、予約の7時でなく、30分も過ぎていた。

 名前を呼ばれ、診察室に入ると、日本にいた頃の病状などを聞かれた。

 伯は、全てを知っているので、私は何も話すことなく、伯が全て、対応してくれた。

 12月8日に再度ここに来て、心臓のエコーを取ることになった。

 それからが、本格的な診療になるようだ。

 

 帰りに、グラルーリョスに寄り、銀行、郵便局、買物などをした。

 伯は、忙しいこともあり、速足で、それらを回った。

 私は、伯について行くのがやっとであった。

 伯は、張り切っている。

 やる気を出している。

 買物は、大型冷蔵庫、エアコンを購入した。

 冷蔵庫、エアコンに限らず、日本製の物は、全く販売されてはいない。

 両方ともブラジル製の物を購入した。

 

 今、マチダ家では、事務所の隣を工場として賃貸していたが、不景気なこともあり、3ヶ月間家賃を支払ってもらうことが出来ず、賃貸契約を破棄した。

 その工場の一画の6畳と4畳半くらいの広さの部屋を、改造することにした。

 水道の配管、電気の配線が終わったところである。

 天井、壁、床のペンキ塗りが始まっている。

 日本から持ってきた、秘密兵器を稼働させるための、食堂兼食品工場の整備が始まったのである。

 まだ、販売方法など、全くの霧の中にある状態である。

 不動産と、この秘密兵器の二刀流で展開したかったのであったが・・・。

 私の最後の仕事になるであろう・・・。

 私が、大宇宙に帰った後も、伯がやっていけるようにしたい。

 この仕事を、伯と一緒に遂行していくことで、ブラジルにきた目的を達成させたい。

 

 「伯と共に、頑張ろう!」

 次の段で、秘密兵器の話を始めます。


       最後です 気を引き締めて しっかりと

                 2人の力 合わせ信じて


 ※ブラジルでは、エアコンは、主力商品でない。

  大きな家電販売店でも、数台しか商品を並べていない。

  一般の家庭では、殆ど、エアコンはない。

  エアコンを購入すると、取り付け工事は、エアコンのメーカーにお願いすることになり、工事費は、現地工事費として、別途支払うことになる。

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