風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第102段

中途退学


 マチダ家の食事は、お母さん、ミユキ、伯が交代で作った料理を、好きな時間に各自が食べたいだけ用意し、食べる。

 私は、伯と2人で1番先にいただくことになっているようだ。

 

 昨晩の食事の時に、伯が「後で話がある。」と話してきた。

 

 先日の日曜日にキヨカズが来て、伯と、テテと、キヨカズの3人で話していたのが、頭によぎった。

 食事を終え、2階で伯と2人で話しはじめた。

 伯は少し、涙ぐんでいた。

 「不動産の仕事を諦める。」

 私は、少しの間、黙って伯の話を聞くことにした。

 その話の内容を書く前に、「伯が不動産取引業を継ぎ、会社の役員として、登録された。」と、前段で書いた。

それは、私の聞き違いで、将来には、登録し、家業を引き継ぐということであった。

 伯の話の趣旨は、仕事を始める前の話と、実際の仕事の内容が違うということであった。

 当初は、土地建物の売買の仕事を憶えるために、基礎から勉強をしていくとのことであった。

 ところが、「建物賃貸の仕事が忙しく、そちらの仕事もやって欲しい。」

 ブラジルは、賃貸料を銀行振り込みにしているケースは少ない。

 月々の現金払いの事が多い。

 支払の遅れはたくさんあるようだ。

 その取り立て業務をするということである。

 

 男でも難しい仕事を、私の愛する人にやらせるとは、何事だ!

 やれるわけがない!

 何を考えてんだ!

 お父さんが高齢で、フレデリックに仕事の殆どを任せてきたことが、ここで大きな問題となってきている。

 伯の仕事のこともそうであるが、他にも問題があるという。

 その問題は、キヨカズ、テテに任せて、伯の問題だけを私は頭に入れた。

 「やれないことを、簡単に承諾するな!」

 私が思ったことは、これだけである。

 伯が、仕事を降りることを、私は躊躇せずに承諾した。

 伯が、家業を継ごうとして、執ってきた道は、立派なことと思う。

 ところが、無理が生じてきている。

 きっぱりと、諦める・・・。

 1ヶ月しか続かなかったが、学校もやめる。

 それでいい。

 私なんぞは、6年も大学にいたが、卒業していない。

 私のように、のらりくらりと学校にいって、何にもならなかったよりも、いさぎよく、やめてしまったほうが良いと思う。

 そして、他の問題は、キヨカズに任せよう。

 

 「泣くな!」

 

 次に続いていることを、2人でやろう!

 御老体ではあるが、手を優しく握り、眠りについた。

 御老体以前に、私は、まだ、人間として、現役である。

 まだ、「愛」を捨ててはいない。

 ボケてもいない。


          行く道に 難題あると 妻がいう

               人生の岐路 間違いなき道

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