風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第75段

8月の空と樹々


 清々しい風と共に、8月が始まった。

 ブラジルでは、桜見物の月である。

 青空には、ちぎられた綿がゆったりと浮かんでいた。

 細かなウロコ雲が、高い空に散りばめられている日もあった。

 雲は、ゆっくりとした風に乗り、昼寝をしているようだった。

 朝霧のかかる日は少なくなり、清々しい朝を迎えることができる日が多かった。

 それでも、太陽が昇ると、日本の夏である。

 太陽は、顔を斜めにして見るしかない。

 眩しすぎる。

 そして、暑いと感じていても、太陽がまだ沈んではいないのだが、西に傾き夕陽に変わると、とたんに肌寒くなった。

 旧盆も過ぎた日に、霧雨が降り、綿入れの袢纏を再び着た。

 冷たい風が、音を伴って樹々を揺すっていた。

 落葉はないが、これが木枯らしか?

 日本の季節の春があり、夏があり、秋があり、そして、冬もある。

 ブラジルの冬はこんな様子である。

 ブラジルは、暦では9月中旬までは冬である。

 

 桑の実は、赤紫色に熟れて、もいで食べた。

 私の日本を思い出す、懐かしい味であった。

 小鳥たちも、啄んでいるが、沢山の実で食べきれず、樹の下にいっぱい落ちている。

 植え替えをした100本の薔薇も、蕾が膨らみ、1本も枯れずに根付いたようだ。

 幾種類かの小鳥たちが、庭の樹に集まり、合唱している。

 朝1番に鳴く「サビア(SABIA)」を寝床の中で、心地よく聞くことができる。

 「ルー ヒエヒョンヒョン ヒエヒョンヒョン」と鳴く。

 時には、このように鳴いた後に、「ピヨピヨ」とヒヨコが鳴くのとよく似た鳴き方をする。

 その「ピヨピヨ」という鳴き方は、団欒の時に、人に話かけ、すぐに「はっ はっ は」と笑う人がいるが、そのように聞こえる。

 「ブッポウソウ」とよく似た鳴き方の小鳥も来る。

 グラルーリョスが山の中なのか、環境保護が行き届いているのか、小鳥たちは、元気で樹々を渡り、可愛い声で鳴きながら集まってくる。

 8月は、穏やかな日が多かった。

 ただ、兄の死は、幸せを感じていた私の心の中で複雑に動いている。

 

      桑の樹は 小鳥集まり 賑やかに

               何を話すか 井戸端会議

上の1枚は、日本の東浦町の於大の道に咲く桜。

下の1枚は、ブラジルサンパウロに咲く桜(公園の名は不明)

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