風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第74段
進まないのではない、進んでいる
おふくろへ挨拶をするために、仏壇の前に立った。
毎朝、位牌に「あはよう」と話かけている。
今朝は、おふくろの位牌の横に、白い一輪差しの花瓶に花が飾られていた。
「あっ。」と思った。
私が昨日、伯の机の上に、ペットボトルの瓶に入れて、そっと置いておいた赤い薔薇であるようだ。
移植した薔薇で、初めに咲いた、赤い薔薇の一輪である。
私が伯に、そっとプレゼントしたのである。
それを伯が、ペットボトルから一輪差しの花瓶に移し、仏壇に飾ってくれたのである。
部屋には、「アパレシーダの聖母」も祀られているにもかかわらず、おふくろの位牌の横に飾ってくれた。
「ありがとう。」
後は、何も言わなくても、心は通じている。
今日は、細かい霧雨である。
寒く、日本から持ってきた、綿入れの袢纏を着ている。
窓からは、遠くに見える高速道路を、車はライトを付けて走っている。
ライトが、ぼんやり浮かび、真っ直ぐな線を描き、移動をしていく。
樹々たちは、モノトーンの中で、冷たい風にざわめき、揺れている。
もう、朝の8時であるが、いつもと違って、薄暗い。
今日は、草とりはできない。
ベランダに座り、庭をみると、記念樹である6本のマナカが、可愛い花を咲かせている。
マナカは、水が好きで、この冷たい霧雨も好きなのか?
下膨れの蕾がだんだんと膨らみ、恥ずかしげに咲き始める。
可愛いおさげを結った、少女に見える。
真っ白な姿は、純真なおさげの少女である。
素顔に若さが満ちあふれ、美しい。
日が過ぎて、見つめる人に恋をして、おさげをを解き、髪を上げ、薄紅色に頬を染め、可憐な心を捧げていく。
薄紅色のマナカの心は、熱く燃え、私だけを見つめて居て欲しいと、言っている。
桜色したマナカは、きっと、庭のマドンナになるだろう。
大きさに違いはあるが、五弁の薄紅色は、
私の心の中で桜になり、日本を思い出させるに充分である。
ベランダからは、庭の入り口付近のグランドカバーを、移植している庭の一画が見える。
草とりをし、移植するに、もう1ヶ月近く経っている。
移植出来たのは、6畳2間程である。
遅々として進んではいない。
そう思っていた。
が、そうでもない事を発見した。
ベランダから、庭を見渡すと、そうでもない。
雑草だらけのジャングルであった庭に、マナカが咲き、薔薇も咲き始めてきた。
ベランダからは見えないが、桑の樹の周りの紫陽花が、元気に咲いている。
草とりは、1ヶ月かけて、6畳二2間程度しかできなかった。
しかし、その場所は、ベランダから見ると、他の雑草が生えている場所と比べ、すっきりしている。
「遅々として進まない。」ではなく、「少しずつでも進んでいる」。と実感した。
少しずつでも良いではないか。
いつかはきっと・・。
雑草取りは、全面改装である。
メールで知也君が教えてくれた、「花の咲く前、生長点より下で切れ!」を目標に作業を始めたのである。
赤い粘土質の土は、雑草にまつわりつき、雑草だけを引き抜くことは、草とりの道具を使ってでもできない。
やっかいな赤土であるが、ここで大発見をしてしまった。
「全面赤土掘り起こし作戦」である。
地表から3センチの赤土を、全て掘り起こす。
道具は、楔型をしたねじり鎌である。
掘り起こした赤土を、右の掌に掴む。
左手で、赤土の隅から順に、赤土を崩しながら、1本1本雑草を外し、雑草入れのトレイに入れる。
大きな雑草、1週間先に生えてきた雑草、そして、昨日生えてきた、ネネ級の雑草も1本1本である。
赤土は、元に戻す。
私には、この作業以外に、良い方法はないと思っている。
「急がば、廻れ。」である。
ネネ級の雑草でも、行くは、大御所になってしまうのだから取り除いておく。
知也君が教えてくれた、格言を守るに、最も良い方法を発見した。
赤土から雑草を取り外す際に、生長点から下ということが、はっきりと判る。
「遅々として進まず」ではない、「少しずつでも、進んでいる」のである。
何年かかるかは、もう、問題ではない。
振り返ってみて、心に残る庭造りをしよう。
白く咲く 乙女の花びら 香しく
我を見つめて 染めるマナカ
※ 朝の仏壇での挨拶とは、もう、8年続いている。
おふくろが逝く前の6年間は、高浜市のアパートで一緒に生活をした。
私が出社するに、おふくろが元気でいるか確認しなくてはならない。
おふくろの部屋には、仏壇が置いてあったので、お参りをするふりをして、おふくろの様子を覗っていた。
私が部屋に入ると、いつも「おはよう」とおふくろは、話かけてきた。
私も「おはよう」と言い、安心して出社していた。
おふくろが逝ってからは、毎朝、位牌に「おはよう」と話かけている。
ブラジルに来てからも、「おはよう」は続いている。
仏様にお参りするという感覚で無く、おふくろへの挨拶である。
小さな雑草までも掘り起こした場所。
雨が降ると、どろどろの赤土になり、長靴は、ブスリと赤土にはまってしまう。
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