風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第65段

7月の空と樹々


 雲は低く、飛んでくる飛行機は、見えない。

 風は冷たく、街ゆく人はフードの付いたジャケットを着ていた。

 夜は、セーターを着て、その上に、日本から持ってきた、綿入れの袢纏を着て過ごす日が多かった。

 ブラジルの南の地方では、雪が降ったという情報があった。

 マチダ家の犬達は、震えを止めるのにティーシャツを着せられ、毛布をかぶせられていた。

 雨が降るたびに、だんだんと寒くなり、「これが、ブラジルの冬か」と思った。

 

 それでも、暖かい日もあり、温度差が大きい。

 その暖かい日は、日本では、経験したことがなかったくらいに、心地よい時間がすぎてゆく。

 日は射している。

 青空である。

 暑くもなく、寒くもなく、暖かい。

 カラッとしている。

 ティーシャツ1枚の方がよい。

 風が創っている。

 きっと、風が私の移住を喜び、プレゼントしてくれたと思いたい。

 経験したことのない、風である。

 ブラジルの冬は、日本の春より、春らしい日がある。

 3ヶ月が過ぎたが、星が見えない。

 インターネットで、南半球の星座などを検索してみた。

 星がたくさん輝いている写真を掲載している。

 「サザンクロス」の写真もあり、夜空を見て、今まで南に見ていた星たちが星座と判った。

 「サザンクロス」は見えたが、他の星が見えない。

 高速道路のオレンジ色の電灯が、夜空をどんよりとしたオレンジ色に染めている。

 空一面に、霞がかかっているのか?

 何故だか、判らない。

 満天の星空がない。

 樹々は、やはり、落ち葉を作るわけでもなく、変わりはなかった。

 庭の桑の木は、新芽を出し始めている。

 雑草君も元気はつらつであった。

 もう、冬は終わりに近い。

 ブラジルは、8月に、「桜」が咲くという。

 

       春のよう これが冬とは 樹々たちも

              落ち葉なんぞは 作るはずなし

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