風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第54段

露天商


 前段の、七夕祭りには、ミユキと伯と私の3人で、参加したのです。

 私達は、「物見遊山」に行ったのではないのです!

 「お土産」を買いに来たのではないのです!

 私達は、「露天商」に仲間入りしたのです!

 ジンタの親戚が、この七夕祭りで、露天商を開くことの出来る権利を持っていて、その場所を、半分借りたのである。

 「ベントウ」「カップケーキ」「サルガドス」を伯とミユキが、4日かけて作った。

 「ベントウ」は、巻きずし、稲荷ずし、卵焼き、鶏肉のから揚げを入れ、伯の担当で作った。

 「カップケーキ」は、ミユキが得意とするところである。

 「サルガドス」とは、ニンニク、タマネギ等を刻み、ひき肉と混ぜる。

 それを練った小麦粉に包み、油で揚げたものである。

 日本のコロッケに似ていて、コロッケの半分より小さい。

 具の包み込みはミユキ、油で揚げるは伯の担当であった。

 露天商の始まり・・・始まり・・・である。

 ドキドキである。

 私の仕事は、露店の前に出て、呼び込みをすることであった。

 歩いてくる客に手招きをして、呼び込みを始めた。

 ポルトガル語は話せない・・・。

 日本語でやっちゃえ!

 「ベントウ」はブラジルでも「ベントウ」で通じる、「カップケーキ」もそのまま、「サルガドス」はポルトガル語だから、商品については、そのまま言葉にすれば良い。

 だから、「ベントウ、ベントウ、おいしいよ…。」となってしまっていた。

 効果は殆どなかった。

 やはり、「ヘタクソ」であった。

 1時間ほど頑張った。

 どの店も呼び込みは、しなかった。

 呼び込みは、1時間でやめた。

 私は、接客が出来るわけでもないので、お金、特にお釣りの係を拝命された。

 ところが、ブラジルに来て2ヶ月半経った今日まで、ブラジルのお金を触ったことがなかった。

 初めて、ブラジルのお金に触れ、どのようなお金の種類があるか、初めて知った。

 お釣りの計算が出来るくらいの計算力は、まだ何とか、維持していたので、間違えずに渡すことが出来たと思っている。

 思っているだけで、間違ったかもしれない。

 土曜日は、伯とミユキと3人で頑張った。

 ジンタの親戚が3組、店に立ち寄り、たくさん買ってくれた。

 夜9時までの販売であったが、7時半には、完売してしまった。

 ジンタの親戚のお陰が大であった。

 日曜日は、ミユキがネネの面倒を見なくてはならず、伯と私と2人だけで頑張った。

 家の外で、はじめて2人だけで仕事をした。

 日曜日は、朝10時から夜6時までの販売時間であった。

 ジンタの親戚が、今日も団体さんで来てくれるわけでなし、順調に売れるか心配であった。

 伯は、昨日より、接客がうまくなっていることが、接客している言葉の調子で判った。

 軽やかに、接客していた。

 だんだんと、不安が安心感に変わってきた。

 私も「オブリガーデン」と調子よく言えるようになっていた。

 「オブリガード」ではない。

 「オブリガーデン」である。

 「オブリガーデン」は、日本語の「ありがとね!」にあたり、「ありがとう」より、心がこもり、親しみのある言いまわし方と、伯に教えてもらった。

 土曜日より、客の流れが多く、売上は土曜日に比べ、遥かに順調に伸びていった。

 そんな状況であるからか、疲れはない。

 むしろ、売れるということで、楽しさいっぱいであった。

 私は、伯が店を離れても、客に売ることができるまでになっていた。

 ポルトガル語で、値段と「オブリガーデン」さえ言っておれば、売れた。

 お客さんへの笑顔は、忘れてはいない。

 スーパーマーケットで見た、レジ係の事務的な顔つきではない。

 「オブリガーデン・・・!」

 軽やかであった。

 そして、完売!

 それも、販売時間を3時間も残し、3時に、すでに完売であった。

 ということは・・・・

 商品が少なすぎたのである。

 隣で「マンジュウ」を売っていたジンタのおばさんが「いまからの時間が1番売れるのに、もっとたくさん持って来なくては・・・。」と教えてくれた。

 この点については、失敗であった。

 ただ、初陣であるからなあ・・・。

 もう、これで、今日はいいや。

 日本にいた頃は、この歳で露天商をやるとは、思ったことはなかった。

 この七夕祭りの露天商の中で、私より年上は、サンドイッチを売っていた、白髪のおばあちゃんだけ。

 頑張ってやってるじゃん!

 おれも、頑張ろう!

 元気で、動けることは、よいことだ!

 どこまでできるか、やってみよう!

 伯と一緒に、同じ仕事ができ、同じ喜びを創ることができる。

 楽しいではないか!

 歳のことは、忘れよう・・・。

 完売したということもあるが、こんなに面白い事とは思っていなかった。

 今度は何処で、店を構えることができるか、楽しみになっている。

 日本からの届いた荷物の中に、伯が考えた秘密兵器が隠されている。

 食べ物であるが、伯に協力して、その秘密兵器を育てていこうと思っている。

 うまくいけるかどうか・・・。


        七夕に 為せる仕事を 2人して 

              初めての風に 夢を持ちつつ 

 

慣れない露天商、頑張る爺さん。

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