風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第35段

講和条約

 このお話は人の世界のお話ではない。

 猫の世界の爽やかなお話である。

 前に日本生まれの「日系ブラジルにゃんこ1世」の2匹と、「独眼竜ブラジル生まれ」の合計3匹の猫が、マチダ家にはいると書いた。

 猫の世界でも縄張りがあり、日本軍の猫2匹は仲が良く、部屋の中でも、ベランダでも自由に行動し、2階を占領していた。

 日本軍の寝床は部屋の中の暖かな敷物が敷かれた、猫用の寝具セットを使っている。

 ブラジル軍は、ベランダの隅に置かれた、これも暖かい敷物の敷かれた寝床で、屋根付きのいわゆる犬小屋の中で暮らしている。

 雨の時は、犬小屋から出ることが出来ない。

 ブラジル軍は、ベランダに日本軍がいない時だけ、ベランダを行き来できる状態で、部屋の中にブラジル軍は、何故か入ろうとしないのである。

 いや、入りたくても入れないのである。

 日本軍は、日本にいた頃からの仲よしで、ブラジル軍は、後から来た、よそ者である。

 入らせてはもらえないのであった。

 私がベランダの窓に、腰をかけ、外を見ていると、ブラジル軍がだんだん私に慣れてきて、私の手に頬擦りをするようになってきた。

 あまり動物好きでない私も、だんだん可愛くなって、膝の上に抱くようになった。

 それが1週間ほど続いた。

私がベランダに腰をかけると、ブラジル軍は私の隣に来て、前足を片方曲げて、部屋の中の様子を覗うようになった。

 部屋の中に入ろうとしているのである。

 が、入らない。

 日本軍は、2匹とも13歳で寝ているという表現がいいのか、座っていると表現した方がいいのか、とにかくあまり動かない。

 動くのは、ベランダに行き、日向ぼっこをする時と、部屋に帰る時、食事の時などで、あとはほとんど動かない。

 日向ぼっこの時でも、動かずにベランダを独占しているのである。

 ブラジル軍は、まだ若く1歳で、日本軍がベランダにいない時は、ベランダで動き回り、1匹で遊んでいる。

 猫そのものの動きをみせ、素早い。

 ある日、ブラシル軍は、ベランダに腰をかけた私の横に来て、部屋の中の様子を覗がっていた。

 しばらくしてから、恐る恐るゆっくりと部屋の中に入ったのである。

 驚きであった。

 日本軍の様子を見ながら、部屋の中を警戒するような素振りでゆっくり、ゆっくりと歩く。

 日本軍は2匹とも、ベッドに横になっている。

 ブラジル軍は、ゆっくりと日本軍の白くて大きな大将のところまで行った。

 顔を近づけた瞬間、白い大将が「プー、ギャー」というような声でわめいた。

 即座に、ブラジル軍はベランダに、素早く退散した。

 ブラジル軍は、日本軍に勝つことができなかった。

 数日そのような戦争が続いた。

 それでも、ブラジル軍は若さにものを言わせ、恐れることもだんだんなくなり、悠々と部屋を歩くようになった。

 日本軍の大将は顔を近づけられても、御老体でめんどうくさくなったのか、おしりの臭いをかかれても、日本軍の餌を食べられても、ただ寝ているだけになった。

 日本軍は「もう、我が軍は危害を加えない、寝かせてくれ。

 餌も食べたければ、我が軍の餌を食べなさい。」とでも言っているように、ブラジル軍を無視した。

 その日から、部屋の中にもう1つの心地よさそうなベッドが、伯からブラジル軍にプレゼントされ、ベランダの小屋は取り外されたのであった。

 講和条約の締結である。

 もう日本軍もブラジル軍もない。

 めでたし・・・めでたし・・・

 その日から私がパソコンに向かうと、ブラジル軍は膝の上に乗ったり、キーボードにひょっこり乗ったりするので、パソコンの画面の文字が「\\\\\\\\\\\\\\\\\」と同じ文字になったりする。

 ちょっと、どいてね、やんちゃな猫ちゃん・・・。

 まだ独眼竜は、名前がなかった。

 キヨカズが拾ってきて日本軍のいるところに連れて来たが、名前も付けずに、置いていっただけの猫である。

 

 伯と話しをして、名前を付けることにした。私が独眼竜だから、伊達正宗の「まさ」をもらい、「まさ」とつけようと提案したら、伯は三毛猫だから「ミケ」とあっさり決めた。

 私が反対などするはずもない。

 「吾輩は猫である。名前はまだない。」はこれで終った。


      猫たちの なかよしクラブ はじまりて

            わがコンピューターは 被害甚大

講和条約締結後の3匹の猫。

寒い冬、仲良く温めあっている姿は、もう、軍隊放棄です。

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