風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第27段

草むしり

 やっと書くことが出来る。

 私の毎日の仕事が決まったのである。

 毎朝6時に食事、太極拳の練習を1人でする。

 そして作業着に着替える。

 それから2時間か3時間ほどの「草むしり」である。

 ブラジルに着いて5日目に少し風邪をひいたが、昼間はさほど熱もなく草むしりをした。

 今日(6月7日)まで毎日欠かさずに続けた。

 これが今日で終了した。

 終了したら書こうと思っていた。

 このブラジルでの私の生き甲斐が、この「草むしり」に始まった。

 マチダ家には3か所に庭があり、1つは玄関の門に近い場所、もう1つは物干し場の奥、あとは住宅の裏に400坪ほどの庭である。

 お母さんが花や野菜を作られていたが、忙しいのと、もうお歳ということでなかなか管理しきれないでおられた。

 日本で、伯が「家には庭があるから、草とりをする。」といっていた。

 その庭で野菜を作ろうが、花を植えようが、どのようにでも使っても良いと、お母さんのお許しが出たのである。

 私は非常に嬉しく思った。

 

 私は日本にいた時に、『田舎暮らし』をしたいと常々思っていて、静岡県の田舎(千頭)とか岐阜県の郡上八幡とか三重県の志摩市など、インターネットを見ながら田舎暮らしの物件を探し、あちらこちら現地を見てまわった。

 病院とか買物などにやはり問題があり、定年後の田舎暮らしの問題を、それなりに解決してくれそうな、東浦町を選んで高浜市から引越しをした。

 JAで畑を借りて、念願の野菜作りを始めた。

 東浦はまだ里山の雰囲気が残っていて、とても気にいっていた。

 野菜は、我ながら、うまくできたと思っている。

 ブラジルに来て、広い庭を好きなようにと言われ、幸運だった。

 前から思っていたことが実現できると思った。

 本当に幸運としか言いようがない。

 この庭をやろう!

 そう思った。

 広い庭は、一面雑草しか見ることが出来ない「ジャングル庭」である。

 どの様になっているか、庭の奥の方は入ることも出来ず、全く判らない。

 判るのは土が例の赤い土ということだけ。

 鉄分の多い粘土質の土地である。

 冬に向かっているので、嫌いなヘビは出ないだろう。

 なにが出てくるか、また何があるか?

 でも「俺はやる!」

 

 「草とり」ではない。

 「草むしり」である。

 草むしりという言葉どおりの作業である。

 地面にしゃがみ、道具はなく、両手で草を掴み、まさしくむしるのである。

 草とりとか、草刈りではない。

 1日にむしる事の出来た広さは、6畳くらいで、険しいところでは、4畳半くらいであった。

 初めは意気込んで力を入れて、むしっていった。

むしっているうちに、だんだん要領がつかめ、ゆっくりと力を入れた方が、うまくいくことが判ってきた。

 早くむしると地上で草が切れて、根が残ってしまう。

 ゆっくりとゆっくりと、東浦で練習した太極拳のように、ゆっくりとむしった。

 大きな木の下は枯葉が積もっていて、むしるとズボズボっと、一度にたくさんむしることができた。

 雑草の種類の分け方などないかも知れないが、この草むしりの仕事では、2つの種類に分けられるように思った。

 1つは地上の部分が上に向かって伸び、中央の太い根が地下に向かって伸びている雑草。

 もう1つは、地上では横に伸びていき、根は細いものが何本も横に広がっていて、なおかつ地上部分が横に広がり、先にも根が生えて、どんどん横に広がっていく雑草とに区別ができる。

 前者の雑草君をむしると、根が残るものが多く、後者の雑草君をむしると、ムシムシムシと横に広がった部分が根っこのついたま、どんどんむしることができた。

 こちらの方がむしっていて気持ちが良かった。

 ところが、庭の奥になると、やはり生えてから何年も経っている大物がいて、同じようにむしっても地上から切れて、根が残ってしまった。

 図太い。

 強情物に成長している。

 どこの世界も、奥地には頑固で強情で居座ったままの、大物が住んでいるものだと思った。

 どういう物かは書かないが、汚いものもたくさんあった。

 昔、お父さんが家を改築した時に、壊した壁などの残骸が捨てたままの姿で、たくさん残っていたり、お酒の空ビンがあちらこちらに捨ててあったりした。

 家族に内緒で自動車を買い、乗り回していたお父さんのことだから、お母さんに内緒でお酒を買い、内緒で飲み、空ビンを捨てておいたとしても、不思議なことではなさそうだと思いつつ、草むしりをしたのである。

 とにかく地上に出ている植物がなんであるか判らないまま、次から次へ精力的にやる気を込めてむしっていった。

 お母さんが大切にして見える植物があったかもしれない。

 種が飛び、自然と生えた要らない木は、そのままにして、第2の工程に回そうと考えた。

 むしり取った草は、ミユキが上手に燃やしてくれている。

 私が火を付けてもすぐに消えてしまう。

ところが、ミユキが付けると、火はどんどん燃え、その上にまだ青い草をかぶせても、乾いて燃えてしまう。

 ミユキはこの草の燃える臭いが好きという。

 

 40日余り続いた草むしりは泥まみれ。

「地上すれすれ、はいつくばり作戦」は終った。

 草むしりの時に頑張るぞ、頑張るぞと思う自分の頭の中には、「負けるな」「こんな事で負けるな」と1人の老人の顔がふいに浮かんでくる時が何度かあった。

 その人の事はここで書かずに、最後に書こう。

 草むしりが終わったらこの段を書こうと思っていた。

 昔からやりたいと思っていたことが、日本の裏側のこんな遠くのブラジルでやれるとは、奇跡だ。

 しかも、広い。

 私はこの庭で野菜を作り、花を育て、兄弟達と楽しめる場所、団欒できる場所を作ることを心から誓う。

 「人生の楽園」をこの庭で造ろう。

 いつ終わるか判らないがやってみよう。

 ブラジルでの大仕事にする。

 そう決めた。

 まだ第1工程が終わったところで、ほんの入り口だが頑張ろう!

 第2工程は大げさに言えば、庭の設計で兄弟達にも参加してもらい、お母さんに野菜や花のことを教えてもらいながら、何を栽培するかを決めていこう。

 また並行して「草取り」をやっていこう。

 今度は草取り、草取りは道具を使って根っこからばっさりと引き抜くこと。

 始めにむしった場所には、もう新しい雑草が元気に成長している。

 これからは、庭に残す植物と取り尽くしてしまう植物に分類しながらの草とり。

 お母さんの話では今、芽は出ていないが綺麗な花をさかせる植物が、地下にあるという。

 やってみよう!

 人生じゃん!

 完成したら、この土地を残して下さったお父さんとお母さんの名前を頂いて、この庭を「エデルソンとエツコの庭」と名前を付け、ネームプレートを作り、飾りたいと思っている。

 まだ誰にも話してはいない。


       広き庭 雑草むしる 手のひらに

             思い秘めたる 明日の楽しみ

2013年4月 私がブラジルに来た頃の庭の全容(1)。

薔薇の花が咲いているが、庭中、雑草だらけの「ジャングル庭」。

その2か月後の6月中旬の庭の全容。

草むしりが終わり、とりあえず、庭の隅々までの様子がわかるようになった。

草むしりをした草を燃やすのが、気持ちがいい・・・・。

庭のあちらこちらに見える低い木は薔薇の苗です。

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