風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第23段

聞こえる音と音楽

 マチダ家は、グラルーリョス市の郊外にあるが、静かとはいえない。

 丘陵地の麓の工場地帯にある。

 私がブラジルに到着して、降り立ったクンビッカ空港は、自宅から車で20分ほどのところにある。

 自宅の西方向にある。

 着陸する飛行機は見えないが、離陸した飛行機は結構大きく見える。

 飛び立ち、真っ直ぐに東の方向に飛ぶルートと、東に向かって飛び立ち、その後、上昇途中で南に転回し、マチダ家の真上を飛び、最後に西の方向に消えていくルートがある。

 季節の風によってまたルートは変わっていくと思うが、今の季節での離陸は、その2つである。

 東にまっすぐ飛ぶ時の音は、大きくはない。

 けれども、自宅の真上を飛ぶ飛行機の音は、結構大きい音である。

 10分程の間隔で飛び立っている。

 夜中も飛んでいるのです。

 飛び立って、2分も経たないうちに真上にくるから、音は大きい。

 それでも飛行機によって、音がまちまちであることが判った。

 飛行機の機種によって違うようだが、風の音のように聞こえる。

 低音で一本調子の、波のない風の音をして飛ぶ機種があり、私はこの音を出して飛んでくる飛行機が1番好きである。

 遠く離れている日本と繋がっている。

 私の今の心を乗せて、日本に向けて羽ばたいている。

 遥かなる風と共に・・・。

 しかし、煩いと感じる機種がある。

 勝手に想像しているが、その機種は貨物便であろう。

 そんなのが旅客機だったら乗客が不愉快になってしまわないだろうかと、心配になりそうな音です。

 その音が毎朝4時40分に・・・・

 「起床時間で・・・・ございま・・・す。」といって私を起こします。

 「いいですよ!私は特別なことがないかぎり、夜は遅くとも8時半には寝てますから、その時間は、良く寝た後です・・・。

 起こしてくれて、ありかとね。」 

 年寄りですから、それより前に目が覚める時もあります。

 この機種の音は風の音というよりも、カミナリの「ゴロゴロ」という音に近い。

 雷が落ちた時の「ドーン ガシャン」という音はないが・・・。

 当初よりは慣れました。

 子供が空を見上げ、飛行機を見る気持と似てきたのかも知れません。

 

 「この飛行機で 日本へ 行く時が ありますように そして 懐かしい人と 巡り合えますように・・・。」


      夕映えの 西の雲間に 見え隠れ

              消えゆく姿 小さき音と


 他に聞こえるのは歌声である。

自宅の前の道路を挟んだむこうに、プロテスタントの立派な白い教会がある。

土曜日と日曜日にはミサの讃美歌が心地よく聞こえる。

 澄んだ声のコーラスで、聞いているとこちらの方も、何をしていようと、清らかな気持ちになります。

 「いつくしみ深き・・・」しか私は知らないが、ポルトガル語で、この讃美歌も聞くことができるから、知っているところだけ、私は日本語で歌っています。 

 67歳になった私でも、清らかな心を持っているのです。

 ところが・・・・事件が起きてしまったのです。

 教会の隣の空工場に、自動車の修理屋さんが引越しをして来たのです。

 修理屋さんは、朝10時頃から仕事を始めます。

 CDで音楽を聴きながら、仕事をします。

 ルンバなのか、サンバなのか、また他のリズムなのか、私には判りません。

 音が問題なのです。

 そんなに大きな音が、カセットから出るのか?

 何処まででも聞こえるくらいの大きい音です。

 マチダ家だけでなく、毎日が煩く、近所迷惑です。

 この工場は、土曜日と日曜日を、お休みにしているが、緊急の仕事が入ったのか、5月の初めの日曜日に、お仕事をされました。

 日曜日は、教会の礼拝があります。

 讃美歌が、始まりました。

 清らかな合唱・・・。

 「♪♪♪♪♪♪♪♪」

 そして、お隣さんが・・・。

 「バリバリバリ・・・・ガシャガシャガシャ・・・・・。」

 始めちゃったのです、修理屋さん。

 CDでルンバ、サンバです。

 めちゃめちゃですがな。

 讃美歌は歌われている、ガシャガシャガシャは始まるし・・・。

 美しい讃美歌の合唱と、「ガシャガシャ」の騒音の大合唱である。

 やめたれや修理屋さん・・・。

 讃美歌が止んだ。

 まずいか。

 始まるか 戦争。

 そう思って状況を見守っていた。

 また讃美歌が始まり、メチャメチャの内にその日は終ったようだ。

 修理屋さんの日曜日の仕事は、それからはないようだが、また日曜日が仕事だったらどうなるのか・・・。

 ただこの頃は、音楽に飽きたのか?

いや、やはり、近所から苦情が出たのだ。

きっと、そうだ。

音が小さくなった。

 

 でも今度からは讃美歌の歌が聞こえてくる時は、いくら小さくても止めて く だ さ・・・い。

 そして、マチダ家の北隣は、運搬用の木製パレットの製作所で、1日中釘を打ち込む音が聞こえる。

 南隣は、鋼材置場として、マチダ家が賃貸している。

 鋼材を吊り上げたりする音が聞こえる。

 マチダ家は、幾つもの音が、1日中聞こえる賑やかな場所にある。


 風に乗り 清らな讃美歌 聞こえ来る

        我も歌わん 慎ましやかに

マチダ家前の風景。

画面左が自動車の修理工場、中央に見える民家を挟んで、右側に見える白くて大きな建物が教会です。

右端に少しみえる緑色のビルが分譲マンションです。

他は、全て民家です。

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