風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第2段
故郷をあとに
想い出を心に風まかせ、女房と2人して、日本を離れる。
平成25年4月23日。
深夜の関西国際空港からドバイ経由で、ブラジルのクンビッカ空港(グラルーリョス空港)までの、長い時間のフライトがもうすぐ始まる。
お世話になった方々、幼馴染、学生時代の友達、若かりし頃の私のマドンナ、そして兄と妹に、お礼の言葉と、移住先の住所を知らせる葉書を空港のポストに投函した。
少しだけ、手の震えを感じながら・・・。
「お世話になりました・・。」
「ありがとう・・。」
「行ってきます・・。」と心の底で呟いた。
「ああ、いつかまた会える、きっと会える。」と心に言い聞かせつつ・・・。
広々とし、人もまばらで、静かな深夜の空港の片隅、女房と2人で椅子に座っていた。
緊張しながら、フライトの時間になるのを待った。
特に話す話題もなかった。
会話はとぎれとぎれで、すぐに沈黙がやってきた。
何もすることはない。
ただ想い出が、ゆっくりと、ゆっくりと心を巡り、通り過ぎて行った。
あの顔、この顔、そして、美しい風景・・・。
・・・・・・・・・
時が来た。
同乗する客に紛れ、女房の後に並び機内に入った。
ざわつきが止み、フライトの準備が終わった。
そして、フライトは始まった。
モニターに映し出される離陸の映像が、私の揺れ動く心の緊張感を、増幅させた。
深夜であるが、眠ることが出来ないでいた。
隣の席の女房は、イヤーフォーンで音楽を聴いていた。
眼を閉じ、ゆったりと・・・。
眠ってはいなかった。
飛び立ち、すでに4時間が経っていた。
窓から地上を見ようとしても、真っ暗で、何も見えない。
故郷が、私から遥か遠く、後ろに離れ、飛んでいく。
「さようなら、日本、桜の国、美しい国、想い出がいっぱい詰まった国よ さようなら。」
いま、南の国に、2人で旅立つ。
友よ、兄よ、妹よ。
そして、若かりし日の私のマドンナ。
涙は流さない・・・。
ただ、目的を忘れずに。
「何処に住もうと、愛おしい、女房と共に生きたいと願う。
同じ空気を吸いながら、同じ思いを抱きつつ、何時までも2人で・・・。
大宇宙が私に声をかけ、『もう、休憩をとりなさい。』と言う時まで・・・。」
この移住の目的は、ただこれだけ。
目的は、これだけで充分。
古希近し 見知らぬ国へ 旅立ちぬ
愛しき人に 櫓をまかせつつ
関空 出発前
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