風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第238段

40日間、日本滞在(その46)

 予定なしの日(その2)


 ゆっくりと過ぎて行く時の中で、伯と2人で見る景色。

 コバルト色の秋の空は高く、眼の前に広がる公園は、桜並木が枯葉を落とし、寂しさだけが先走った。

 静かな池。

 孫たちが遊んだ、サイクル広場。

 初めて太極拳をした広場。

 

 もう、来ることができないかもしれない。

 そんな寂しさが湧いてきていた。

 おふくろの口癖の「もう、みおさめね。」

 この時に私は、そう思った。

 また、ここへ戻って来たい。

 でも、できないかもしれない。

 いや、絶対に来る!

 そんな思いが、くるくると心の中を、駆け巡っていた。

 でも、また来ようぞ!

 ゆっくりと、ゆっくりと流れる時の中で語らうことができた。

 4時を廻っていた。

 腰をあげ、公園の裏道に出た。

 伯と話、最後に「王将」に食べに行くことにした。

 町役場の裏に出ることができる細い坂道を降りた。

 町役場を抜け、よく食べに行った丸亀製麺の前を通り、師崎街道に出た。

 師崎街道を北に歩く。

 昔の常夜灯そして、露地の片隅には、古い道標の石柱が残っていた。

 旧街道で道幅は細く、車は少ない。

 1キロくらいで入海神社に着いた。

石段を登り、本殿の前にたった。

 2人の少年が、本殿の階段に座り、ゲーム機で夢中に遊んでいた。

 邪魔をしないように階段の隅を通り、本殿前に立ち、お参りした。

 私がガキの頃の思い出で、神社の境内で遊んだ記憶は、沢山ある。

 全ての記憶は、冒険という言葉の中にある。

 本殿の階段に座り、ゲームに没頭している少年も、何時の日か、自分の想い出として、甦らせることであろう。

 想い出の中身は違っていても、ガキの頃の思い出。

 その時代の違いの中で、人の心の砂時計は、静かに流れている。

 さらさらと、さらさらと途切れることなく。

 入海神社の石段を下り、大きな通りに出た。

 2キロ爬度歩き、「王将」に着いた。

 伯は焼飯、私はラーメン、何時ものこと。

 何時食べても、美味しい。

 京都で、健誠君と行った「王将」でのことを思い出した。

 京都とは、味が違うが、どちらも、美味しかったのは同じ。

 帰り道のこと。

 途中に本屋がある。

 立ち寄った。

 目的もないまま、ただ、時間つぶしのために入った。

 買う気もなく、店の本棚を眺めながら・・・。

 文庫本のコーナーになった。

 三島由紀夫のコーナー。

 見ると、「潮騒」があった。

 もう1度、読んでみようか。

 どうせ、飛行機の中は、何もすることが無いから、読んでみよう。

 430円、新潮社。

 アパートに戻った。

 ガランとした部屋。

 今晩は、晩酌なし。

 東浦最後の夜。

 寂しさと共に、もう、寝てしまおう・・・。

       かの桜 また何時の日か 巡り合い 

           もうみおさめとは まだ先の先

 

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