風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第237段

40日間、日本滞在(その45)

 予定なしの日(その1)

 9月28日。

 もう、友達との会う約束はない。

 1日中、何も予定はなかった。

 知多半島を1周したいと思ったが、もう「トヨタのbB君」とさようならをしたから、足がない。

 あるのは、爺さんの短い足だけで、どうにもならなかった。

 ホテルのチェックアウトを10時とし、ゆっくりとしたいと思っていた。

 朝食を、8時半に取り始め、仲居さんに内海行きのバスが、何時であるか聞いたら、9時に旅館の送迎用のバスが河和まで行くということで、急いで食事を終え、帰り支度をした。

 バスには、私と伯のほかに4人の客が乗っていた。

 私が知多半島で通った道とは、全く違った道を通り、送迎用のバスは10分ほどで河和の駅に着いた。

 早い到着であった。

 地元であるから、送迎用のバスは、近道を知っていたのだった。

 

 河和の駅に着き、昨日、飲むことが出来なかったコーヒーを飲みたくなり、スーパーの出店でコーヒーを注文した。

 ポットからコーヒーを紙コップに注ぎ、手渡された。

 少しさめていて、コーヒーの香が無く、薄いコーヒーであった。

 私は「コーヒー」を注文したのです。

 「コーヒーもどき」を注文した覚えは、ありません。

 電車が来て、最後尾の列車に乗った。

 座り心地の良い、素晴らしいシートで、これは最高だ。

 と、思ったが、誰も乗ってこない。

 待てよ?

 おかしいなあ・・・。

 乗客は、この最後尾の車両を横目に、前の方の車両に乗るためにプラットホームを歩いていた。

 あれれ・・・。

 この車両は、グリーン車だ。

 伯と2人しかいない。

 前の車両に移ってみた。

 やはり、その通りであった。

 

 知多半田の駅に着き、JR半田駅まで5分ほど歩く。

 途中に、JRの陸橋の下をくぐった。

 私の故郷、高浜市の高浜港と三河高浜の駅の間の陸橋と似ていた。

 長さが同じくらいであった。

 ガキの頃、陸橋の下の隙間に入り、顔の上、30センチくらいのところを列車が通り過ぎるスリルを味わった遊びを思い出させた。

 私達と同年代の半田の人達も、ガキの頃には、同じように陸橋遊びをしたのだろうか。

 JRに乗継ぎ緒川で降り、イオン東浦に行くことにした。

 予定が無く、ぶらり、ぶらりの行動であった。

 イオン東浦のスターバックコーヒーに行き、コーヒーを飲み直した。

 そして、「おめでたい焼」に行き、「鯛焼」を注文した。

 あんこの入った鯛焼で、私が焼いている物より大きかった。

 美味しかった。

 何処の鯛焼でも、鯛焼という食べ物は美味しい食べ物である。

 世界中の人よ、鯛焼を食べよう・・・・!!!!

 その中でも、ブラジルで鯛焼じいさんが焼く鯛焼が、世界一うまいに決まっている。

 日本の生地と違い、ふんわりとした生地が特徴のブラジル鯛焼を食べよう!

 イオンの中を歩き、何を買うのでもなく、ぶらり、ぶらり・・・。

 この店で帽子を買った。

 この店で孫への駄菓子を買った。

 この店でお父さんのコートを買った。

 それぞれの店、それぞれの想い出・・・。

 鯛焼を食べたせいか、余りお腹がすいていなかった。

 帰りにコンビニで、おにぎりを2つ買って帰った。

 ガランとしたアパート。

 テレビを見るしかすることが無い。

 おにぎりをたべながら・・・。

 もう1度、「於大の道」を歩こうか。

 そう思い、アパートを出た。

 歩く前に、伯は、また、コンビニに寄りたいと言った。

 コンビニへ行き、ビール2本とメロンパンを2つ買った。

 何を思っていることやら・・・。

 コンビニを出て、ブラジルに渡る前に2人して生活したアパートの前を通った。

 私達が過ごしたアパートの部屋は、カーテンが掛けられ、どなたかが借りていた。

 部屋の間取りや、部屋での過ぎ去った生活が甦って来た。

 「於大の道」に出て、明徳寺川を歩きはじめた。

 あれほど強烈に、真っ赤に燃えたぎっていた曼珠紗華は、色をなくし、燃えたぎった想い出だけを抱きしめ、ひっそりと・・・。

 伯が立ち止まり、メロンパンをちぎり始めた。

 川の鯉に、ちぎったメロンパンを投げた。

 鯉は、大きく口を開け、メロンパンを食べた。

 2つあったメロンパンの1つは、鯉の口の入っていった。

 この桜並木を、今度は何時歩くことができるのか。

 遠くの丘の竹林は、爽やかな風に揺れ、里山の秋は始まり、桜の葉は赤く染まり、散り始めていた。

 山の手大橋を過ぎ、「乾坤院」に入る。

 伯は、赤い橋のかかる池に行き、また、メロンパンをちぎり、池の鯉と亀にほうり投げた。

 鯉は、水と一緒にズボズボと音を立て、メロンパンを飲みこんでいった。

 亀は、小さな口でパクパクと。

 私と伯と2人で食べると思っていたメロンパンは、このようにしてなくなった。

 伯の動物好きが覗える。

 「於大公園」に入る。

 枯れ葉が散り始めた桜並木を通り、公園の、中央の池の橋を渡った。

 ここにも、鯉はいた。

 パンはない。

 伯は、ここの鯉は、この公園に遊びに来る人達が餌をやっているから、私がやると食べ過ぎになるからやらない・・・・だって。

 よく食べる私には、もう、やらないよと、言っているように聞こえない訳でもなかった。

 公園の丘の中腹の芝生に座り、プルトップをひいた。

 明日は、東浦を離れる。

 伯と過ごした「あの頃」。

 東浦の1年余りの充実していた生活が想い出された。

 伯が言う、「よく歩いたね。」

 伯が言う、「よく食べに行ったね。」

 楽しかった想い出が次々と、思い出された。

 おふくろの爽やかな秋風のなか、「俺はこんなに幸せなんだ。」

 そう、感じた。

 

       秋風が 揺する枯れ葉の 公園は

              流れる時を 思い出させて

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