風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第236段

40日間、日本滞在(その44)

 再び海へ

 9月27日。

 帰りの荷物を送った後の何もないアパートでの朝食であった。

 冷蔵庫には、飲みかけの牛乳、パンと数枚のハムだけが入っていた。

 コーヒーメーカーは、荷物と一緒に送ってしまっていたので、コーヒーは飲めなかった。

 あるものだけの朝食にした。

 

 今日は、もう一度、海を見たいということで、知多半島に出掛けることになっていた。

 日本に来て、初めに行った知多半島の山海海岸にあるホテルで1泊の予定を立てていた。

 車は、返したので電車で行くことになった。

 常滑線で半田まで。

 ホテルのチェックインは、3時になっていて、時間がたっぷりあった。

 半田駅で降り、半田市の街を散策することにした。

 駅に置かれた観光地図を1枚貰い、それを見ながら歩きはじめた。

 初めに着いたのは、「半田運河、蔵のまち」であった。

 運河沿いに黒板作りの醸造蔵が並び、映画の撮影場所にもなったと看板が作られ、紹介されていた。

 何の映画であったかは、爺さん、憶えていない。

 ハゼ釣りの釣り人が数人、釣を楽しんでいた。

 釣ったハゼを見せてもらったら、結構大きかった。

 そのはず、もうすぐ、10月で、各地で秋祭が始まる時期であり、この頃のハゼはもう、大きくなっている。

 秋風の中、祭囃子の音が聞こえてきそうであった。

 

 運河を離れると、今度は、爺さんの好きな酒の工場、酒蔵に出た。

 酒が出来るまでとか、酒の歴史などが展示されていたが、爺さん、早く「試飲」をした気持でいっぱい。

 そんなの、眼にはいらない。

 車で来ていないから、心配ない。

 「試飲場所」に御到着・・・。

 差し出された、コップを飲みほした。

 飲みほしたといっても、杯1杯だけであったが・・・。

 今晩の晩酌用と、お土産用の酒を購入する許可を得た。

 「ありがとね、伯さん。」

 「今日の晩酌用」と、私が言ったので、きっと伯も今日は晩酌をしたいと思っていたので許可が出たのだ。

 間違いない!

 次は「赤レンガ建物」に着いたが、工事中で中を見ることが出来なかった。

 ここは、ビール工場があった処で、中に入ったら、「ビールの試飲」があったのか?

 判らない。

 そして、名鉄知多半田の駅に着いた。

 昼飯時になっていたので、昼飯を食べるために、駅の廻りを歩いてみた。

 「王将」があれば、そこで、伯は焼飯、私はラーメンといきたかったが、「王将」が見当たらなかった。

 駅近くのラーメン屋で昼食をした。

 昼食をしてから、河和線で内海まで。

 内海に着くと、山海海岸に行くバスがある。

 しかし、これが1時間に1本しかないバスで、私たちが着いた時には、発車したすぐ後であった。

 おおよそ、1時間の待ちになった。

 けれども、待ち時間は、ブラジルで病院などの待ち時間の長いのに鍛えられているから、もう、イライラはしなかった。

 山海海岸に着き、3時のチェックインには、まだ1時間もあったので、海岸を歩いてみた。

 リュックサックを背負いながら、波の輝きをみた。

 遠くまで、キラキラと・・・。

 続いている砂浜の端まで歩いた。

 堤防の上では、釣り人が糸を垂らし、キラキラと輝く波の向こうには、貨物船が海の上を滑って行った。

 ブラジルにも美しい砂浜があり、美しい海もあるという。

 でも、日本の海、ガキの頃から泳いだ海。

 日本の海は、私の大切な幼馴染みの中の1人である。

 

 ホテルに入る。

 宿帳には、郡上八幡で書いたと同じように、和洋折衷で記入した。

 部屋は、海が見渡せる3階の部屋であった。

 時間は、まだ、3時を少し廻った頃であった。

 何もすることが無く、ぼんやりとテレビを見ていて、寝入ってしまった。

 伯も、座布団を枕に寝入っていたようであった。

 眼を覚ますと、5時半を廻っていた。

 風呂に行く。

 風呂、最上階にあり広く、海が一望できた。

 足をのばし、ゆっくりと湯に浸かった。

 海は静か。

 その静かな伊勢の海を太陽が赤く染め、キラキラと輝いていた。

 そして太陽は、ゆっくりと、大きなままで鈴鹿の山を越えて沈んでいった。

 夕食は、ビールを1本、伯と2人で。

 食べ終わり、半田の酒蔵で買った日本酒を片手に、伯と2人で窓際の椅子に座った。

 コップ酒。

 つまみはない。

 ブラジルのピンガと違い、まろやかな味わいである。

 ゆっくり、ゆっくりと、このひと時、この酒を味わいながら、伯と話した。

 もう終わる、日本の旅。

 沢山の想い出。

 そして、ブラジルへ戻ってからの人生。

 空になったコップに酒をまた注いで・・・。

 

 外に眼をやった。

 遠くの灯。

 神島に1つだけ灯が見えた。

 神島の灯台の灯。

 新治と初江は、結ばれることが決まった後に、この神島の灯台に2人で登り、遠くに光る伊良湖の灯台、そして、今、私と伯がいる知多半島の野間の灯台の灯を、2人の人生の明日の灯として見ている。

 今、私と伯は、夜の海に浮かぶ神島の灯台の灯を見ている。

 きっと、新治と初江は、今も神島で仲良く暮らしている。

 私達も、仲良く・・・。

      灯が見える 遠く小さく 海の上

           新治と初江の 仲よしの島

 

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