風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第217段

40日間、日本滞在(その25)

 神島(その3)

 夕飯となった。

 漁師の街を象徴するかのような、料理が並んだ。

 刺身は鯛にサザエやタコが付き、2人分とは思われないくらいのボリュームの刺身であった。

 爺さん、美味しく全部食べてしまった。

 煮魚は、名前がわからなかったが、鯒に似た口の大きな魚。

 大アサリの醤油焼、海老の塩焼きなど。

 日本料理の典型と思うが、ブラジルでは、食べることができない料理の数々。

 お腹がビックリ・・・。

 お酒も入り、幸せ、幸せ。

 

 食事が終わり、仲居さんが片付けに部屋に来た。

 「美味しかったです」

 「ありがとうございます。・・・どこからお出でですの?」と聞かれたので、「ブラジルのサンパウロから来ました。」と答えた。

 「えっ、ブラジルから?日本語がお上手ですね。」などと話をした。

 私が、1年と少し前にブラジルに移住した日本人などとは、釈明しなかった。

 私は、ブラジル人に見られたのだ。

 これは、日系人が日本に来て働き、日本にいる間はブラジル人と見られ、ブラジルに帰ると、日本人として見られる。

 私は、彼らと同じように見られたのであった。

 「日ブラ人」でなく、「ブラジル人」として・・・。

 それで良い。

 ちなみに、この旅館には、宿帳はないようであった。

 食事が終わり、布団が敷かれた部屋の窓辺の椅子に腰掛け、島に渡る前に、伊良湖のコンビニで買った220cc入りの焼酎を、2つの茶碗に注ぎ、伯と2人で飲みはじめた。

 窓の向こうは、夜の海に満天の星空が被さっていた。

 グラリューリョスでは、こんな星空は見えない。

 そして、聞こえるのは、岸壁に打ち寄せる波の音だけ。

船着場はひっそりとしていた。

 海の向こう遥か遠く、北東に「伊良湖灯台の灯」、北に「野間灯台の灯」、北西に伊勢あたりの灯りが見える。

 灯台の灯は、回りながら、断続的に神島を照らしていた。

 この灯台の灯を新治と初江は、「神島灯台」に登り2人で見ている。

 新治が、嵐の日に、初江の父の漁船が沖に流されそうになり、新治が海に飛び込み、漁船がながされるのを防いだ。

 その男らしさに、初江の父は、新治の婿入りを決断した。

 新治はライバルに勝ったのだった。

 その報告のため、灯台長の家に魚を引っ提げ、覗ったのであった、

 灯台から2人が見た海は、暗く、遠くの灯りだけしか見えなかったであろう。

 彼等は、その真っ暗な海を、手さぐりしながら、お互いに愛し合い、助け合い、海を照らし、楽しい人生を切り開いていくであろう。

 私にとって、最大の教訓である。

 明けの朝食に「兜煮」が出たのには、驚いた。

 昨晩の刺身の鯛であろう。

 甘辛く、プロの味であった。

 伊良湖への定期船は、11時であり、まだたっぷり時間があった。

 チェックアウトは、1番遅い10時にお願いしておいた。 

 部屋に戻り、荷物を整理したが、時間が余った。

 何もすることがない。

 横になり、テレビを見た。

 休憩は、それで良いのだが・・・。

 昨日の島1周のウオーキングが登山に近いものだったので、だんだんとふくらはぎに痛みが出て来出した。

 先に書いておくが、それは、だんだんと痛みが激しくなり、この後、1週間くらい、痛みは続いた。

 ぼんやりと、テレビを見ていたら、チェックアウトの時間が近づき、帰りの支度をして1階のカウンターに行った。

 カウンターのベルを鳴らした。

その時、船着場にある漁業組合のスピーカーから「海老が入りました。取りに来てください。」と島中に聞こえる声で、数回繰り返し、放送された。

 カウンターに顔を出した女将は、「ちょっと待っててね、すぐ帰るから・・・。」と言って下駄を履き、外に飛び出して行った。

 「かたかた」と、下駄の音をたてながら・・・。

 何のことか、さっぱりわからない。

 まだ、定期船の出港には、たっぷりの時間がある。

 ロビーの片隅の椅子に、座って待つことにした。

 椅子の前には、「潮騒」の映画の撮影時の風景写真が張られ、それを伯と2人でゆっくりと見ながら・・・。

 5分くらいして、女将が帰ってきた。

 「今日は、伊勢海老の解禁日で、伊勢海老が入ったから、味噌汁を作るから少し、待っていてね。サービスですよ!」なんて・・・。

 やったね、チェックアウトを遅くして・・・。

 待つこと5分。

 半分に切られた大きな伊勢海老が、味噌汁に入り切らずに、飛び出ていた。

 こんなの初めて・・・。

 遠くブラジルから来たのだからというサービスだったのであろう。

女将さんありがとう。

 旅館を出て、さあ、お土産を買おう!

 船着場の横の食堂兼お土産売場に直行した。

 そしたら、「休業日」の看板。

 あれ、お土産が買えない。

 他には、お土産屋なんてない。

 昨日、買っておけばよかったのに・・・。

 残念だが、仕方がなかった。

 定期船に乗り、伊良湖に出港。

 乗客は伯と私、それに、釣客が2人の4人だけ。

 飛沫がかかる。

 だんだん、島が遠くなる。

 やっとの思い、「神島」の旅ができた。

 幾度か、見るたに行ってみたいと思っていた島。

 その度、甦る「監的哨跡」の新治と初江。

 私の心に衝撃を与える。

 今、島では、私と同じで年老いた新治と初江が助け合い、仲良く生きていると思う。

 私もそうでありたい。

 山2つ 寄り添いながら 生きている

               我は忘れず ロマンの島を

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