風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第209段

40間、日本滞在(その17)

 古希の旅行(その4)

 ホテルに到着

 奥軽井沢の森林に囲まれ、静かな佇まいの「グリーンプラザ軽井沢」という名のホテルであった。

 バスを降りるとすぐに、ホテルの案内人が、「夕食の会場は、あちらです。」

 「お風呂は、あちらです。」

 「明日の朝の食事は、あちらです。」と立て続けに説明をしたので、爺さん、さっぱりわからない。

 大きなホテルで、まだ、ホテルの中の様子は、全くわからない。

 「いいさ、皆にはぐれないように、ついていくだけさ。」

 

 部屋の割り振りの用紙が配られ、私は、京都でお世話になった健誠君と、私と小学校から大学まで同じ学校に通った昭君の三3人部屋になった。

 ホテルの中がわかりにくかったが、皆の後に付いていき、部屋にたどり着いた。

 3人で、テーブルを囲み、雑談した。

 昭君は、中学から大学まで陸上クラブに所属し、長距離を得意としている。

 話を聞いてみると、いまもまだ、マラソンに参加しているとのこと。

 ハワイ、オーストラリアなどのマラソン競技に今でも参加しているとのことであった。

 まさに、「健康優良爺さん」である。

 

 暫くし、3人で風呂に行った。

 一緒に行ったが、脱衣所で、人が多くはぐれてしまった。

 まあ、いいや、ゆっくりと入ろう。

 体を洗い、湯船に入った。

 ブラジルでは、シャワーだけで、湯船に入ったことはない。

 ましてや、足を延ばして入る風呂は、何時頃はいったのか、記憶をたどってみた。

 2年半くらい前に、伯が雪を見たいと言っていたので、高山に旅行をした時のホテルの露店風呂以来であった。

 あまり長湯が好きな方ではないが、久し振りの大きな風呂で、ゆっくりと湯船につかった。

 照明は、薄暗く、湯気が立ち込め、遠くの人陰は薄っすらと見えるだけであった。

 短い足を、伸ばせられるだけ、思いっきり伸ばした。

 

 そして、湯あがり後、お待ちかねのパーティー。

 バイキングで、寿司があり、スパゲッティーもあり、和洋が混ざり合っていた。

 ビールで乾杯。

 皆の健康を祈念した。

 腰掛の席の広いホールで、何処の席にも行ける状態であった。

 あちらこちら廻りながら、ビールを注ぎ、話をした。

 「元気かや・・・。」

 「おお、元気、元気・・・。」

 お互いの健康を話し、聞いた。

 ブラジルのことは、あの「心地よい南風」の事をあちらこちらで話をした。

 宴たけなわであったが、時間の過ぎるのが早い。

 2時間ほどのパーティーは、あっけないほど短く感じた。

 「カラオケ」があるとのことで、部屋を移動した。

 酔いがまわり、ダンスをする者、何だか知らないが、タコ踊りのような踊りを踊りだす者。

 古希といえど、まだまだ皆若い。

 カラオケの選曲をし、変わるがわり、自慢の歌を歌っていた。

 私は、隅っこで、ただ聞いていた。

 すると、京都の健誠君が、近くにいた鈴香さんを誘い、デュエットで歌い始めた。

 おっとと、びっくりするではないか。

 石原裕次郎の「銀座の恋の物語」

 「健誠君、お主、やりおるなあ・・。」

 そう思い、私も1曲歌うことにした。

 人が歌うから、俺も歌うなんて、根性が悪い!

 でも、歌う!

 何にする?

 デュエットなんて、知らねーよ。

 1人では、音痴がばれる。

 どうしよう。

 ええい、デュエットの曲ではないが、2人で歌ってしまえ!

 健誠君が裕次郎なら、俺も裕次郎で行こう。

 選曲し、曲を入れてくれるよう、お願した。

 私の番が来た。

 健誠君と同じように、鈴香さんを誘い歌い始めた。

 裕次郎の「北の旅人」

 ブラジルという、南の国から旅に来たのに、「北の旅人」とは、いかがなものか・・・。

 爺さん、だいじょうぶ?

 それでも、感情を込めて、音痴君は歌い始めたのであった。

 鈴香さんのうまいこと・・・。

 私は、ほろ酔いの中、「音痴節」が気持のいいこと。

 1番、2番、だんだんと、感情が入っていく。

 酔いのせいであったろう。

 気持よく、裕次郎そのものになってしまいそう。

 何言ってんだ、短い足して・・・。

 それでも、やっと歌い終わった。

 点数表示板がくるくる回る。

 「95点」の表示。

 「え?本当に・・・。」

 こんな、良い点数、わかんねえ・・・。

 俺ではない、鈴香さんがうますぎるのだ。

 健誠君の時も、90点であった。

 鈴香さん、ありがとう。

 音痴君の古希のカラオケ。

素晴らしい、想い出となった。

 

 カラオケが終わり、今迄の旅行では、1つの部屋に皆が集まり、夜が更けるのを忘れて、たわごとをいい、笑いあっていたが、今回は、カラオケでお開きのようであった。

 御就寝。

 大きないびきも音痴節、毎回の事、お互い様・・・。

 

 朝、酔いが残らず、爽やかに目を覚ますことができた。

 長距離ランナーの昭君は、すでにホテルの周りのランニングに出掛けていた。

 健康である。

 私も、ささやかながら、ラジオ体操、太極拳、気功を続けて行こう。

 そう、思った。

  

       古希の酒 席を廻りつ 友と飲む

            この酒の味 何時の日かまた

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