風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第169段

一輪のマナカ

 寒空の下、グラルーリュスはもう冬である。

 けれども、サビアの子供の歌姫は、優しい声で「ピヨピヨ」と囀り、五月の初めに堅く付きだしたマナカの蕾が膨らみ、一輪だけ可憐に白く開きはじめた。

 そんな庭で、今日も草取り。

 去年、庭に落ちたと思われる一年草のカヤツリグサ。

 1本、1本指でつまみ、取り除く。

 まだ、タネは落ちてはいない。

 今、取り除いておけば、きっと、来年はもう、生えては来ないであろう。

 ゆっくりと、ゆっくりと取り除いていこう。

 手を休め、ゆったりとマナカの一輪を眺める。

 一輪のマナカに日本がちらり。

 私が生きてきた中の沢山の人。

 面影がゆらり・・・。

 何をどうするのでもなく、あの人、この人の面影が浮かぶ。

 日本で会おう。

 そして、元気でいることを、確かめあおう。

 話す言葉が、途切れても、心の中には、生きてきた想い出がよぎるはず。

 心はすでに、遠い日本に。

        草取りの 休めし見つめる 桜似花

                 陽炎の様 故郷見ゆる

 

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