風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第152段

散りゆく花びら、酒宴のなかで

 同年の「とりいぬ会」の友よりメールが届く。

 「今年も、桜の見物会を開いた。」とのこと。

 毎年、ヤンチャ坊主、オカッパ頭であった友達が集まり、酒宴を開いている。

 懐かしいかぎりである。

 場所は、高浜市「大山緑地」。

 私の母校の高浜中学校の校歌にも歌われている「大山の森」のことで、昔はこの名前で呼ばれていた。

 森には、「春日神社」と「八剣社」が祀られ、毎年10月の第1土曜日と日曜日の2日間にわたり、勇壮な「おまんと祭」が開催される場所でもある。

 私が中学2年生の時に襲来した、「伊勢湾台風」で森の樹々が倒され、それから「桜の樹」を植え始められた。

 「ソメイヨシノ」である。

 今は、見事に千本桜として、市外からも花見客が訪れる場所となっている。

 岐阜県根尾村の「淡墨桜」の子孫の3本の「淡墨桜」が植えられていて、「ソメイヨシノ」より先に咲き始める。

 

 花見客の酒宴は、森の東側から、北側に向けて、沢山のビニールシートが敷かれる。

 私達「とりいぬ会」は、西側にある会館の隣を毎年、占拠している。

 森の近くに住む政夫君が犬の散歩の途中に、この場所を毎年陣取ってくれていた。

 

 昼12時の開催であるが、バーベキューということで、早々に準備にかかる。

 毎年、時間が来る前に、すでにビールのプルトップを開ける音がしていた。

 だんだんと集まりかけ、賑やかになっていく。

 久しぶりに会う友。

 昔の想い出、そして、今の事。

 「ちょっと、腰がいたくてねえ・・・。」など、たわいない会話の中、冗談も交え笑いが途切れない。

 酔いもあり、言葉は弾んでいた。

 或る年の酒宴の事。

 風が強く、紙コップを空にすると、風で紙コップが飛んで行ってしまう。

 酒を入れて置きっぱなしであった。

 花吹雪・・・。

 沢山の散りゆく花びら・・・。

 酒に酔い、花吹雪に酔いしれ仰ぎ見る桜。

 ひとひらのはなびらが、私の紙コップに舞い落ち酒に浮かんだ。

 見ていると、ゆっくり、ゆっくり、ゆらゆらと廻っている・・・。

 酔いの中、浮かんだはなびらが美味しそう。

 酒と一緒に口に含んだ。

 味もないまま、飲みほした。

 「桜が私になったのか、私が桜になったのか。」

 酔いのなか、酔いのなか・・・。

 そして、昨年の酒宴。

 この酒宴を最後に、ブラジルへ行こう。

 そう決めていた。

 誰にもブラジルに移住することは言っていなかった。

 誰にも言わずにブラジルに行こうと決めていた。

 関西国際空港で、移住の知らせを出せばよいと考えていた。

 大げさにしたくはなかった。

 満開の桜のもとで、友と楽しく酒を、酌み交わした。

 友と交す最後の花見酒、心に沁みていた。

 「お開きよ・・・。」

 「ありがとね・・・。」

 私は、そう声をかけ、帰路についた。

 森の中、1人で帰る私の後を追っかけてきた!

 「おい!みっちゃん!つめてーぞ!」

 高校時代に良く一緒に遊んだ磯田君だった。

 もう1人、富子さんであった。

 「なんにも言わずに、外国に行くんだってな。

 ちょっと、そこらで飲み直そう。」

 私は、泣けた。

 私の記憶はここまで。

 あとは、泣き続けたようだ。

 そして、ブラジルへ行くことを話したようだ。

 記憶にない。

 ただ、何処か居酒屋で飲み直し、富子さんをタクシーで送り、東浦のアパートに帰った。

 帰っても泣けてきて、伯に笑われたことは憶えている。

 その涙は、友との別れの寂しさと、友の心の優しさへの「ありがとう」の涙であった。

 「友よ!ありがとう!」は今も私の心に残っている。

 でも、私の記憶は何処へ・・・。

 きっと、爽やかな風に包まれて、花吹雪と一緒に、何処か素晴らしい処に行ってしまったのだろう。

 この友の心は、忘れることはない。

      桜見の 酒に浮かびし はなびらを

           飲み干しわれは 花となるらん

   

 ※友との最後の酒宴の2週間くらい前に、同年の洋一君から電話で、夏の一箔旅行の相談をしたいと言ってきたので、進一君と強二君を誘いあい、4人で師崎港まで行き、昼食をした。

 私に例年通り一泊旅行の会計をして欲しいとのことであったが、ブラジルに行くことを決めていて、しかも、誰にも言わない方が良いとも決めていた。

 「4月、外国に移住する予定だ。」と話した。

 私の娘が、アメリカに住んでいることは、3人は知っていた。

 3人とも、私が娘のところに行くと先入観を持ち、事は終わった。

 ブラジル行きは、話さなくて済んだのだった。

 ところが、最後の酒宴が終わって、磯田君が私を追ってきたのは、席を後にした其の後で、師崎で話した内の1人が、「外国行き」を話したのだと思っている。

 それで、追っかけてきたのだ。

 やっぱり、話おったか・・・。

 と、いうことだ。

 でも、有難い想い出を作ってくれて、感謝している。

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