風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第113段

大晦日から新年へ


 今、日本は、12月31日午後11時40分になろうとしている。

 もう少しで新年を迎える。

 日本にいたら、風邪をひかないように厚着をして、神社の初詣の列に並びに出向くところである。

 日本での最後の大晦日、まだ生活を始めて1年にもならない東浦町で、伯と2人で入海神社へ・・・。

 旧道は狭く薄暗い中、ところどころの家の門には提灯が飾られ、私達と同じに沢山の人達が初詣に向かう姿があった。

 東浦の入海神社の参道は階段。

 もう、沢山の人達が初詣のために並んでいた。

 寒くはなかった。

 境内の真ん中では、火柱も強く勢いよく火が焚かれ、新年の秒読みに入っていた。

 伯と2人、静かに新年がやってくるのを、長い列に挟まれ、待ちながら・・・。

 日本での最後の新年になるだろう。

 そう、心に言い聞かせた。

 新年のカウントダウンが済むと、少しずつ列は進んだ。

 神前で誓った。

 「ありがとう、日本。ブラジルに行きます。そして、幸せになります。」

 日本での最後の大晦日から新年を迎える時。

 清らかな巫女達が舞う姿を見ながら、ゆっくりと参拝の列から離れた。

 私はお神酒をいただいた。

 伯は甘酒をいただいていた。

 ブラジルに行き、伯と2人で暮らそう。

 私の心は、寂しさなどなく、見知らぬ国での伯との生活がどのようであれ、うまくいくことを願っていた。

 初詣の帰り、除夜の鐘を聞きながら、薄明かりの提灯の中、帰った想い出。

 そして1年が過ぎた。

 今、ブラジルでの大晦日。

 書いている間に、日本は新年を迎えている。

 「おめでとう。」

 焚き火が焚かれ、太鼓に合わせ、笙の笛、巫女が舞い、お神酒に甘酒、そして、除夜の鐘。

 懐かしきこと、心に浮かぶ。


          新しい 時の流れの 移り際

              忘れまじきは 日本の年越し

 

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