風よ伝えて(爺さんのブラジル移住)第70段

涙そうそう


 「カリーナ アイコ トカシキ」

 ジンタ、ミユキの愛娘、3歳。

 「ネネ」、マチダ家のアイドルである。

 

 週の半分は、マチダ家に来て、お爺ちゃん、お婆ちゃん、伯、テテ、そして私と遊ぶ。

 歌が好きである。

 出せる声の限界まで、感情をこめて歌う。

 まだ幼児言葉ではある。

 お父さんのジンタがユーチューブで、日本の歌を聞かせ、ネネは、それをうまく感情をこめて歌う。

 居間、台所、庭、車の中と、どこでも歌う。

 伯が、「マルマル、モリモリ・・・」と教えたら、踊りの振り付けまでも、憶えてしまう。

 私が「イモムシころころ、ひょうたんぽっくりこ」と歌い、何度もネネに教えようとしても、この時だけは、ネネは、眉を吊り上げ、唇を一文字にし、歌わない。

 変な歌と思っているようだ。

 それとも、私の歌い方が「ヘタ」と思っているかもしれない。

 歌詞の初めから終わりまでは歌わない。

 憶えているところを繰り返し、歌う。

 特に、「涙そうそう」をよく歌う。

 マチダ家の庭の一画に、木陰ができ、コンクリートで少し高くなった場所がある。

 そこは、要らないものが埃にまみれ、置かれていた。

 私がそこを片付け、何もない空間にした。

 庭作りの色々な道具の置場にしようとしている場所である。

 2畳くらいの広さで、コンクリート敷きで少し、高くなっている。

 ネネはそこを舞台代わりに、歌いだしたのである。

 身振りも交えて、箒をマイク代わりに、大きな声で。

 きっと、ユーチューブで見た、日系4世の可愛い女の子の真似であろう。

 感情がすごく籠っているのを見ると、きっとネネは、その女の子になりきっているのだ。

 「想い出♪♪・・・遠くに♪♪・・・」

 まだ、幼児言葉である。

 下膨れの可愛い3歳である。

 とうとう、その日が来てしまった。

 ネネは、心臓に欠陥がある。

 私は、詳しいことを知らない。

 判っているのは、生まれつき心臓の弁がうまく閉まらない。

 このことは、ネネが生まれた時から判っていたことである。

 手術の時期が来たのである。

 カテーテルの手術をすることになった。

 家族で話す会話の中、不安が増していく。

 私には、「心配ない。医者に任せておけば・・・。」くらいしか、励ましようがない。

 

 ネネよ、大丈夫、ネネは何時も頑張っているから。

 ネネは夕方、お祖母ちゃんと一緒に、神様にお祈りをしているから・・。

 神様は、いつもネネを見守っていてくれる・・。

 神様だって、また、ネネの一生懸命に歌う「涙そうそう」を聞きたいと待っていらっしゃる。

 

 ネネよ、お前の小さな舞台は、残しておくよ。

 また、歌ってくれ ネネ。

 8月19日、午前10時を回った。

 ネネは、ジンタの運転で、ミユキと病院へ出発した。

 ネネは、腕にネネの顔の大きさの「プー」のぬいぐるみを抱き、笑顔で出発した・・・。


         晴れ舞台 歌う心は 風になり

                大空流れ 神様に届け

    

 ※ノッサ セニョーラ アパレシダ寺院で、

 「ネネの手術が、成功しますように。」と、お願いをして来た。

 私が「アパレシーダの聖母」にお祈りした、2つ目のお願いである。

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